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winter's scarecrow

家 電


「うちの電話はベルを鳴らす前に息をする」

一瞬だけ世界が止まる、向田邦子さんの言葉だが家の中心に、いや玄関かな?
小さな座布団の上には電話器があった。

確かにベルが鳴る前に一瞬の躊躇いがあったような気がした。

嬉しい知らせ、悲しい知らせ、他愛もない知らせ、悲喜こもごもの電話器。



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私の部屋の家電は鳴らない。

携帯電話を持つ前までは日に何度も鳴っていたのに。 携帯に変わってからもメールではなく電話がかかってきたときが困る。

数は少ないけど、はじめの「もしもし~」の声が上ずってしまう。

20代初め実家に住んでいた頃、「w 坊、長距離電話だよ!」と母は2階に向かって叫んでいた。 階段の途中まで駆け上がり「早くしなさい!誰だっけ?山形の・・・」

長電話をするのではないかと台所の隅で見張っている。 通話料金は向こうなのに。

電話の時代は忙しかった。 


父からの自宅への電話。20代の後半たまたま実家にいた私が受話器を取ると「なんだ w 坊か? そうか!渋谷のあの店にこれから行けるか?!とりあえずすぐに戻るから」

私の行きつけだった居酒屋、一度父を連れて行ったら大喜びだった。「ろくでもない息子がお世話になっております」と経営者夫婦、従業員、お客さんにも挨拶をしていた。

二度目は常連客のように吞んでいた。息子とは話すことはないらしく板さん会話のキャッチボールをしていた。楽しそうだった。


そんな笑顔から数ヶ月後、父の身体に異変がきた。

三度目はなくなったが、父は「また行こうな」とずっと思っていたに違いない。

今や置物になってしまった私の部屋の電話器、暇そうなので携帯から電話をかけてあげる・・・。

鳴る前に息はしない・・。



by w-scarecrow | 2018-11-29 15:33 | そのほか | Comments(0)