winter's scarecrow

小さな消しゴム

今月の15日に詩人の吉野弘さんが亡くなった。 
観念的ではなく印画紙にうっすらと浮き上がってくるような日常を綴った素敵な作品の数々だった。


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         小さな旅  
                                   吉野 弘


                 丸く小さく
                 ころがり易くなった
                消しゴムがひとつ
                見えなくなった

                消しゴムの消し屑となって
                忘れ去られた言葉は
                幸いなるかな

                成就され
                忘れ去られた言葉は
                幸いなるかな

                言葉に成就された私の一部は
                幸いなるかな

                いまだ書かれず
                成就されない私の部分を
                消しゴムは消すことが出来ぬ

                いまだ書かれず
                成就されない私を辿って
                やせにやせた
                消しゴムの
                旅

                冷酷で臆病で
                淫蕩で用心深い私が
                消しゴムに許したのはわずかだ

                あれでもない
                これでもないと
                やせてゆく消しゴムの歌を
                私はじっと聞いていた

                あれでもない
                これでもないと
                やせてゆく消しゴムの白さを
                私はじっと見ていた

                その消しゴムが
                追われたように
                或日
                見えなくなった

                                                 



浪人生の頃、早稲田界隈にある古本屋を覗き歩くのが愉しみだった。 古本の文芸書は神保町より早稲田の方が充実していた。
古本の中に 『 感傷旅行 吉野弘詩集 』 という薄いクラフトケースに収まったデザイン性を全く感じない本を手にした。
吉野さんの詩は頭でっかちな少年にとっては優し過ぎた。 それから何年も過ぎて少しは分別がついたころ、やっと書棚から目を醒ました。

                *                *                *              *


明日から2月に入る。 2月に入ると何故かチョコレートが買いにくくなるので昨日、デパ地下で生チョコを買ってきた。
「いや、バレンタインデーでもらう前にちょっと食べたくなって」と販売員に向かって声には出さず話しかけていた。            

今日は " 愛妻の日 ” らしい。 日比谷公園では日本愛妻家協会主催の「愛を叫ぶ」大会が行われている。
大きな声で「愛してるぞ~!」と叫んでいる男たち。 平和な国ニッポン。 
愛妻の類似語「愛夫」という単語は日本語にあるのかな?
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by w-scarecrow | 2014-01-31 19:39 | | Comments(6)
Commented by abebe_039 at 2014-01-31 20:38
さすが、吉野さんの詩 美しいです。
scarecrowがうなずけるのも納得です。
愛に餓えているのですか?そんな感じは全くなくかと。
どちらにせよ、いつも拝見せているブログ好きですよ。
チョコレート好きな男性もっと増えるといいな。
って私はwさんの方のような甘い物もアルコール好きな方いいと思いますねどね。
Commented by w-scarecrow at 2014-01-31 21:34 x
abebe さん、久しぶりです!
戦中、団塊世代の詩人は観念的で詩=art みたいな感じの時代があったんです。
皆、背伸びをしてページを開いたのですが溶け込めませんでした。
大正生まれの吉野弘さんの詩はちゃんと地べたに足をつけていて、響いてきます。
甘いもの大好きです。
でもご飯と食べる甘い味付けの惣菜は全くダメなんです。酒の肴も。
ほうじ茶の生チョコが好きなんですが、デパ地下は見つかりませんでした。
Commented by mother-of-pearl at 2014-02-01 11:23
吉野弘さんの訃報、存じませんでした。

若かりし頃、混声合唱団で歌った曲に
吉野弘さんの詩による『心の四季』がありました。

中でも『雪が』の心象風景と『山が遠くから人の心をとりこにする・・』と
歌われた詩など、これからもずっと心の底に残るでしょう。

久しぶりにあの頃の熱き想いが甦ってきました!

・・愛妻の日、でしたか。
叫ばれるより、しっかりハグされる方が嬉しいかも。
(“春の七草”覚えておきまっす!(^.^))
Commented by ぶるぼん at 2014-02-01 18:00 x
中学校の国語の授業で「夕焼け」を知りました。どこまでもわかりやすい優しい言葉の続く中に一文だけ、「われにもあらず受難者となる」とあって、みんなそこだけ立ち止まって考えたように覚えています。亡くなられたんですね~(涙) 

ちょうど、谷川俊太郎 松本大洋コンビの 死をテーマにした絵本を買って読んでるところだったので何かじんわりきてしまいました。

Commented by w-scarecrow at 2014-02-01 20:56 x
mother og pearl さん、こんばんは。
「雪が激しく降り続ける 雪の白さをこらえながら 欺きやすい雪の白さ 誰もが信じる雪の白さ・・・」
合唱組曲はこの詩の後に「山が遠くから・・・」へとづづいていくんですね。
吉野弘さん88歳の誕生日の前日に亡くなられたみたいです。
優しい言葉の繋がりのなかに厳しさも儚さも言葉ではなく、想い浮かべる情景のなかに感じます。

日本愛妻家協会、入会規定を見てみたくなります。
叫ぶものではなく、モジモジと小声で言うものですよね(言ったことはないですが)。
Commented by w-scarecrow at 2014-02-01 21:07 x
ぶるぼんさん、こんばんは。
「夕焼け」は教科書に載っていたんですか?文部省もまんざらではなかったんですね。
吉野さんは石油会社のサラリーマンをやられていたので通勤電車の情景が多いんです。
カメラではなく自分の周りの日常をスケッチしていたんでしょうね。
先程、検索したのですが一週間前に発売されたばかりなんですね。
2年をかけて描いた松本大洋さんの画が平面的ではなく深みを持っていて素敵ですね。
もう重版を作っているみたいで書棚に並んでいるか判りませんが本屋で覗いてみます。