雲
暑中お見舞い申しあげます
駒場東大前にある大好きなパン屋さん"ル・ルソール"でチキンとドライトマトのサンドイッチを買って向かいの駒場野公園へ。
80歳前後の老夫婦が陽を避け歩いている。
ひ孫であろうか5,6歳の男の子が2人を先導するかのように走っている。
「水溜りがあるから気をつけて行きなさい」と妻。
男の子は振り返り微笑んでいる。
「早くお母さんに届けてあげなさい・・転ばんように」
男の子は手に持った袋を一瞥して、走っていった。
お爺さんの物腰のやわらかな声が、鈴の音のように魅力的だった。
そのお爺さんと笠智衆さんが重なった。
熊本訛りの抜けない朴訥な語り。
誰もが想い浮かべる明治の男。
明治37年に熊本県玉名にある浄土真宗本願寺派のお寺に生まれた笠さん、
気骨ある九州男児、息子さんたちには「男は男らしく」、男らしさとは「泣くな、笑うな、喋るな」と教えたらしい。
映画『東京物語』で笠さん演じる周吉は妻が逝った翌朝、「きれいな夜明けだった」と呟くように言った。
「ひとりになると急に日がなごーなりますわい」
映画のラストでの台詞がずっと心に残っている。
笠智衆さんが亡くなられて17年がたった。
年を重ねた人間の美しさ、立ち姿の凛々しさ、空には小津安二郎映画に出てくるような、白くふわふわとした真夏の雲が浮かんでいます。
写真▲Switch 1992年1月号より
by w-scarecrow
| 2010-07-30 17:35
| そのほか