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winter's scarecrow

芋焼酎のお湯割りを片手に

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『雪の日に』

雪がはげしく ふりつづける
雪の白さを こらえながら

欺きやすい 雪の白さ
誰もが信じる 雪の白さ
信じられている雪は せつない

どこに 純白な心など あろう
どこに 汚れぬ雪など あろう

雪がはげしく ふりつづける
うわべの白さで 輝きながら
うわべの白さを こらえながら

雪は汚れぬものとして
いつまでも白いものとして
空の高みに生まれたのだ
その悲しみを どうふらそう

雪はひとたび ふりはじめると
あとからあとからふりつづく
雪の汚れを かくすため

純白を 花びらのように かさねていって
あとからあとから かさねていって
雪の汚れを かくすのだ
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雪がはげしく ふりつづける
雪はおのれを どうしたら
欺かないで生きられるだろう
それが もはや
みずからの手に負えなくなってしまったかのように
雪ははげしく ふりつづける

雪の上に 雪が
その上から 雪が
たとえようのない 重さで
音もなく かさなってゆく
かさねられてゆく
かさなってゆく かさねられてゆく


          吉野弘詩集【感傷旅行・葡萄社刊】より




いつも行く飲み屋さんで日曜日の夕方、同じ時間に同じ席に座っている、ひょろっとした70代中頃の老紳士。
元は大学の教授。
朴訥で一本気で付き合い下手な戦中から抜けだしてきたような老人。
奥さんを失くされてから10年、週に一度、娘さんが来て炊事と洗濯をしてくれていた。
「先生、洗濯機も機械が勝手にやってくれますし、掃除機もひとりで部屋中をクルクル廻る円盤形のものもありますよ。炊飯器も無洗米がありますし・・」
最近、娘さんの通院で来れる日が不定期になったらしい。
野球、相撲、ラグビー、戦後のスポーツ史の生き字引のようにどのスポーツも詳しく、楽しく話を聞かせてもらった。
何度か家にもお邪魔して惣菜をつまみながら呑んだ。
風貌も私の亡父に似ていて、老人も飲み屋で私と会うのを楽しみにしてくれていたみたいだ。
先日「Wくん、掃除機を買うことにしたから一緒に電気屋さんへ行ってくれないだろうか」と言っていた。
そんな先生が突然、亡くなられた。
家事を何もやらなかった人が、好きなロールパンを買ってきて冷凍をするようになった。
電子レンジも使えるようになった。 洗濯物も自分で干すようになった。
「家内が旅行好きでね、定年してから日本中をまわったんだ。ただ唯一行っていないのが鹿児島でね。いつか娘でも連れて行ってみようと思っているんだ」
大好きだった奥さんとの結婚記念日の2日前に逝ってしまった。

東京は冷たい雨が降っている。雪に変わるみたいだ。
これから、いつもの飲み屋で黒薩摩のお湯割りを呑みに行ってきます。
by w-scarecrow | 2010-02-11 18:40 | | Comments(6)
Commented by Kirara at 2010-02-12 00:31 x
きっとその方もwさんを息子さんのように感じておられて事でしょうね。親しく交流されていた方がお亡くなりになりお寂しいかぎりですね。
奥さんに先立たれて10年。。。慣れないことの連続で大変だったことでしょう。
黒薩摩のお湯割り いいご供養になったことでしょう。

ご冥福をお祈りします。

Commented by w-scarecrow at 2010-02-12 01:01 x
いつも奥さんとの旅の話ばかりをしていました。
時間が止まっていました。それから10年、後ろではなく前を向いたときに。
僕ら男から見ると哀愁があって素敵なんですが、命はもろいですね、何かの為、誰かの為にがなくなると辛いんでしょうね。
kiraraさんの作品、またすごいです!
どうして、そんな発想ができるんだろと想います。
Commented by 花子 at 2010-02-12 05:54 x
「いつまでも白いものとして生まれた悲しみ」、人は雪に多くを期待し夢を託す、
それが重荷だったかもしれないなんて、考えてもみませんでした。
親しい方の訃報はどんなに惜しんでも抗えないことと知っていても悔しさが残ります。
でも奥様は不器用な先生が好きだったから、呼ばれたのかもしれませんね。
Commented by スミエ at 2010-02-12 18:27 x
奥さんに先立たれた男の人って・・・つらいですよね。
女は夫が亡くなっても結構ケロリと生きてる人が多い
気がします。うちも私が先に逝ってしまったら途方に
くれるだろうな・・と思うし・・かといってOTOさんに
先に逝かれたら淋しいし・・・せーのっ!!で一緒に・・
ってわけいかないんですよね・・。困ったもんだ。
Commented by w-scarecrow at 2010-02-12 21:11 x
花子さん、こんばんわ。
奥さんに先に逝かれた淋しさから、少しづつ前向きになってきた矢先のことで悔しいですね。
いつも座るカウンター席を見ていると、声が聞こえてきそうです。
雪を眺めているとこの詩が浮かびます。
Commented by w-scarecrow at 2010-02-12 21:29 x
sumieさん、こんばんわ。
奥さんに先立たれた男の人の「じゃあ、また」と言って帰る背中を見ていると悲哀を感じますね。
外食ばかりになってしまい躰は大丈夫なのか、布団はたまには干すのだろうか・・心配がつのりました。
Blogを読んでいる限りOTOさんはなんでもひとりでできそうですよね。
ご夫婦で九州の温泉で躰を癒して長生きをしてくださいね。
欧州旅行のプランを立てている時間、楽しそう。