吉野 弘 詩集
『生命は』 いのちは
生命は
自分自身だけでは完結できないように
つくられているらしい
花も
めしべとおしべが揃っているだけでは
不充分で
虫や風が訪れて
めしべとおしべを仲立ちする
生命はすべて
その中に欠如を抱き
それを他者から満たしてもらうものだ
私は今日、
どこかの花のための
虻(あぶ)だったかもしれない
そして明日は
誰かが
私という花のために
虻であるかもしれない
『吉野弘詩集』より
青土社 1981
汐留付近を歩いていると躰のすべてが渇いてくる。
東京湾から吹く海風にも湿気を感じない。
今すぐに、人の呼吸が感じられる場所に行きたい。言葉をかわさなくてもいい。
人の息遣いの中でホッと息をつきたい。
by w-scarecrow
| 2008-11-26 18:41
| 本