しかたがない と落ちてくる
雪崩のとき
石垣りん
人は
その時が来たのだ という
雪崩のおこるのは
雪崩の季節がきたため と
武装を捨てた頃の
あの永世の誓いや心の平静
世界の国々の権力や争いをそとにして
つつましい民族の冬ごもりは
色々な不自由があっても
またよいものであった
平和
永遠の平和
平和一色の銀世界
そうだ 平和という言葉が
この狭くなった日本の国土に
粉雪のように舞い
どっさり降り積もっていた
私は破れた靴下を縫い
編み物などをしながら時々手を休め
外を眺めたものだ
そして ほっ とする
ここにはもう爆弾の炸裂も火の色もない
世界に覇を競う国に住むより
この方が私の生き方に合っている
と考えたりした
それも過ぎてみれば束の間で
まだととのえた焚木もきれぬまに
人はざわめき出し
その時が来た という
季節にはさからえないのだ と
雪はとうに降りやんでしまった
降り積もった雪の下には
もうちいさく 野心や いつわりや
欲望の芽がかくされていて
” すべてがそうなってきたのだから
仕方がない ” というひとつの言葉が
遠い嶺のあたりでころげ出すと
もう他の雪をさそって
しかたがない しかたがない
しかたがない
と 落ちてくる
嗚呼 あの雪崩
あの言葉の
だんだん勢いづき
次第に拡がってくるのが
それが近づいてくるのが
私にはきこえる
私にはきこえる
1951年1月
朝からの雨。
身近な人のCT 検査の結果が良好と聞きホッと力が抜けた。
懐かしき Ornette Coleman を聴く。
学生時代、学研に勤めていた先輩 M さんから、茨木のり子、石垣りんの詩集を渡された。
授業が終わり、アルバイトへ出勤する前にJazz 喫茶に寄り、大好きなオーネート・コールマンを聴きながら、石垣りんさんの詩をめくっていた。
先週は巣鴨の西友で2束¥1200の花を買い、墓参りへ。 ワンカップを一本置き、私もちみちみと呑みながら親父と話してきた。
帰りすがら、岡倉天心の墓前には10人くらいの団体さんが掌を合わせていた。
小さい頃、よく焼きトンを食べに連れていってもらった赤提灯では、大声で軍歌を歌うおやじたちに出くわした。
「戦地、外地へ行かなかった人間は、でかい声を出すんだ・・・」と串を頬張る私に亡き父は小さく言っていた。
月曜日は七夕、何を願おう・・・。
by w-scarecrow
| 2014-07-05 13:57
| 本