winter's scarecrow

長い冬

1962年のフランス映画の傑作" Un Singe en Hiver" 『冬の猿』 当時、日本では配給されなかった作品。 
'80年代後半にやっとリバイバル上映されたアンリ・ヴェルヌイユ監督の代表作。
同じくジャン・ギャバンとのコンビで撮った『ヘッドライト』の陰に隠れてしまった作品。
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名優ジャン・ギャバンと新星ジャン・ポール・ベルモンドの新旧スター共演のエポック的な作品。
小作品ではあるが、そんな中にこそ名作が隠れている。 

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J.ギャバン演じる安ホテルの主、若い時は放埓に生き、酒びたりの日々を送っていた。
ドイツ軍の空襲があったときも決してグラスを離すことはなく、砲火のなかを千鳥足で彷徨っていた。

若き日に水兵として中国へ赴き、その時の強烈な東洋の想い出を来る日も来る日も壊れたテープレコーダーのように語っていた。

そんな夫を案じた妻との約束で15年間、酒を断っている。

過去への郷愁にも似た気持ちを内に閉じ込め、静かに人生の冬を迎えようとしていた主。

そんな時、この安ホテルにJ.P.ベルモンド演じる男がやってきた。
着くなり、酒を出してくれと頼むがこのホテルには酒はない。
こんなシケたホテルで酒を呑んでも美味くはないと、街へくりだすベルモンド。

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酒に酔ったベルモンドは酒場のテーブルの上でフラメンコを踊り、路往く車には闘牛士にように挑んでゆく・・。

ノルマンディーの寒々とした港町、この街にある寄宿舎にいる愛娘を連れ戻しにやってきたベルモンド。
自分と同じように過去を拭いきることができず、その重みに潰されそうになっている若い男にギャバンは自分を重ね合わせる。

15年間手を出すことがなかった酒に、失われた時間を取り戻すかのように、一瞬の輝きを託す。
二人は陽気に街を練り歩き、叫び、笑う。
アル中のオヤジが営む雑貨屋にある花火を全て打ち上げてしまう。 田舎町の寒空がまるでパリ祭の空のように光放っている。

バカ騒ぎをすればするほど、この上ない寂寥感が湧き、心を打つ。
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翌朝、連れ戻した愛娘とベルモンドは帰路につく、墓参りにゆくというギャバンも途中まで同行する。
誰もがいつかは迎えなければならない人生の冬。
初冬に群れから離れてしまった猿の話を娘にする。

エンディングに「その後、老人は長い冬を迎えた・・」のテロップが画面に流れる。
何かを封印をする時がくる、その前の一時の輝き、老人の燃やす炎の幾重にも見える彩りが鮮やかに心に残っている。

ジャン・ルノワール監督の『大いなる幻影』、ジャック・ベッケル監督の『現金に手を出すな』、フィルム・ノワールの作品群、どの映画でもジャン・ギャバンは輝いていた、ジャガイモみたいな風貌だがその存在感に圧倒させられてしまう。
なかなか陽の目を見ることがなかった『冬の猿』、間違いなくフランス映画の傑作です。 DVDで観ることができます。
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by w-scarecrow | 2010-03-29 20:37 | 映画 | Comments(2)
Commented by yundes at 2010-03-30 23:26
モノクロの映画は色が白と黒なのに色がついtるような
錯覚をするときがあります。
そして物語や登場人物の性格や風景をじっくりと味わうように観てしまう。
最近の映画はCGや映像美や派手な展開のものばかりが
目だっていて映画館で観たいって思う作品が少ない。
この頃の作品は影さえも芸術的で素晴らしいですね。

Commented by w-scarecrow at 2010-03-30 23:59 x
yundesさん、こんばんわ。
yundesさんも、そうかもしれませんが小さい時の洋画ってハリウッドの映画でエンターテイメント。
それが中学・高校になるとアメリカ映画と違って欧州の映画が洒落ていて、理屈ぽくて、理解できなくて、全く見ぬ世界で刺激をいっぱい受けました。
この「冬の猿」もそうなですが、モノクロームのスクリーンに映し出される打ち上げ花火は瞳を通してカラーの映像に映っていました。
白黒の画面をすぐにカラーに転換できる世代なんですかね。